ワインの世界地図 ~フランス・ブルゴーニュ地方~

今回のワインの世界地図のテーマはボルドーと肩を並べる銘醸地、ブルゴーニュです。

パリからTGVという高速鉄道で約2時間半で訪れることのできるこの産地は

今でもなお最も根強いワインファンを持つ産地であると言えます。


別名「コート・ドール(黄金丘陵)」と呼ばれ、なだらかな丘陵地帯は収穫期になると
色づいたブドウの葉が黄金色になり、圧倒的な景観となります。

それでは何故、多くのワインファンがブルゴーニュに惹きつけられるのかを紐解いていきましょう。

歴史

他のフランスのワイン産地と同様に、ブルゴーニュにもローマ人のガリア侵攻により
ワイン造りが伝わりました。
ブルゴーニュにおいてのブドウの栽培はキリスト教と深いつながりがあります。
多くの畑はベネディクト派やシトー派の修道院によって開墾され、発達しました。
また、修道院で造られるワインはミサの必需品でもありました。


ブルゴーニュの畑に行くと石垣に囲まれた畑を見つけることができます。

この石垣は「Clos(クロ)」と呼ばれクロ・〇〇という畑名がラベルに表記されます。

石垣で畑を囲むという事はその区画が重要かつ高品質なブドウを栽培することが

できるという事をこの時代の修道僧たちは既に知っていたようです。

修道院によって造られた高品質なワインは歴代のブルゴーニュ領主たちの外交の手段にも
用いられることが多かったそうで、ピノノワールから造られるワインは王侯貴族たちに

愛飲されていたそうです。


1789年にフランス革命が起こると革命政府はブドウ畑を貴族や修道院から取り上げたのち

再度民間に売却しました。
その後、ナポレオンが制定した民法内での均分相続法によりブドウ畑は細分化される運命を辿ってゆくことになってしまったのです。
これはつまり、父親がある畑を所有しており、ふたりの息子がいたとしたら

その畑はふたりの息子に均等に相続されるわけです。
このことによりブルゴーニュはひとつの畑に何人もの所有者がいるという状態になっており、
同じ畑であっても造り手が異なることで味わいが異なるという極めて興味深い事実に至るのです。

ワインの種類とテロワールの概念

ブルゴーニュでは一般的に黒ブドウはピノノワール、白ブドウはシャルドネが認可されており

補助的にアリゴテという白ブドウが若干栽培され、南のボジョレー地区に行くと
ガメイという魅力的な黒ブドウが栽培されています。

ブルゴーニュのラベル表記は地理的ワイン、村名ワイン、畑名ワインというふうに

松竹梅と分類がされています。

例に挙げるとブルゴーニュ、とだけラベルに表記されたワインは
この造り手がブルゴーニュ中の様々なエリアから集めたブドウを使ったワインという事です。

次に村名ワイン(例えばジュヴレ・シャンベルタン)はある特定の村のブドウだけを使った

先述のワインよりもよりブドウの出所が由緒正しくなっていると言えます。

そして畑名ワインはそれより更に細かく、○○村の○○畑のブドウだけ、という意味になります。

そして畑名も通常の畑、1級畑、特級畑と格付けがされており、頂点に位置する特級畑は

村名を表記する必要なく、畑名のみの表記となるのです。(例:シャンベルタンなど)

そして前述の通り、ほとんどの畑は法令により細分化され相続がなされており
同じ畑でも異なる所有者がいるわけです。

しかしごく一部の畑は細分化の運命から逃れ、単独所有され続けられている畑も存在します。
このような畑は「モノポール」と呼ばれます。

ブルゴーニュの魅力はそう、ここにあると言えるのです。

シャルドネ、ピノノワールというブドウのみから

異なる村、異なる畑と作り手、ヴィンテージの掛け算によりワインが産まれ

ワイン愛好家は各々のお気に入りの作り手、畑を見つけてゆくのです。

そしてボルドーに比べると遙かに生産量が少なく、天候により収穫量も毎年左右されるので
偉大な生産者のワインは世界中で取り合いになることから、より希少性も高い産地なのです。

こういった様々な要素から、ワイン愛好会達の垂涎の銘醸産地がブルゴーニュなのです。


エリア区分

それでは北から南にエリア区分を説明させて頂きます。

シャブリ・オーセロワ地区

北西部、ヨンヌ県に位置し、ロワール地方にもほど近いエリア。
冷涼な気候でありピュアな果実味の白ワンとして知られるシャブリ地区がある。
シャブリ以外はマイナーな産地が多いのですが、一部のエリアではソーヴィニヨンブランを
植えるなどユニークなエリアも存在しています。


コート・ド・ニュイ地区

コートドールの北半分はコート・ド・ニュイと呼ばれ赤ワインの銘醸地として名高い産地です。
長い歴史を誇り力強いジュヴレ・シャンベルタン、官能的なシャンボールミュジニー、
ロマネコンティを有するヴォーヌ・ロマネなど綺羅星のような銘醸村があります。



コート・ド・ボーヌ地区

コルトンの丘という丘陵地帯を境にした南半分はコート・ド・ボーヌと呼ばれ
こちらは白の銘醸地であり、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェといった世界的に高価格で取引がなされる白ワインを産出している村があります。



コート・シャロネーズ地区

コート・ド・ボーヌの南に連なる南北25㎞に渡る産地。
リュリー、メルキュレ、ジヴリなど非常に品質と価格のバランスではお値打ち感のある
地区が多い産地です。
特にブーズロン地区のアリゴテ種による白ワインは非常に素晴らしく興味深いものです。



マコネ地区

8割近くが白ワインを生産する産地であり、非常に気軽に楽しめるワインが多い中
プイィ・フュイッセやマコンのいくつかの生産者は
貴腐菌付きのシャルドネから非常に興味深いワインを造ってます。



ボージョレー地区

美食の街として知られるリヨンに近い産地であり、我が国ではヌーヴォーと呼ばれる新酒が
あまりにも知られているのですが、肩肘張らずに食事と楽しめるような
個人的には非常に好きな産地です。

今をときめく自然派ワインのフランスにおけるパイオニア的な産地でもあります。
ブドウ品種はガメイ、シャルドネが認可されています。


非常にエントリーし易い産地

生産量の減少や為替の影響で年々高額になってゆくブルゴーニュのワインではあるのですが
ブドウ品種が単一であるという点では、ラベルを読解することが非常に簡単ではあるので
入門の産地としては適しているのかな、と思います。

そして世界中のピノノワールとシャルドネのワインはブルゴーニュを目指している場合が

多いと言われているので、味わいの基準にもなるのではないでしょうか?

まとめ

まずは1本飲んでみて、お気に入りの畑、村、作り手を見つけて見てください。

そこから皆さまのブルゴーニュの物語が始まる事でしょう。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


朝倉達也
朝倉達也
A.S.I.(国際ソムリエ協会) 認定ソムリエ / J.S.A.(日本ソムリエ協会) 認定ソムリエ・エクセレンス / Court of Master Sommeliers 認定ソムリエ / Napa Valley Wine Japan Expert / WSET Level 3 / 2022年、ソムリエの新しい働き方を広げてゆくべく独立、株式会社La Luneを設立。関西中心にフリーランスとして活動を開始。従来の概念にとらわれずもっと自由な料理とワインのペアリングをみなさまに楽しんで頂くために、独自のメソッドや方法論を日々試行錯誤している。

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