ワインの世界地図~イタリア前編~
ソムリエズ・ノート
フリーランスのソムリエ朝倉達也です。
「ワインの世界地図」のコーナーは世界の様々なワイン産地を
歴史や風土、文化を交えながら紹介してゆくコーナーです。
今回のワインの世界地図のテーマはイタリア!
フランス、スペインと並ぶ世界のワインの生産量の巨大シェアを誇る国です。
非常に幅広い生産国なので一度にその魅力をお伝えするのは難しいので
全3編に分けてその魅力をみなさまにお伝えしてゆければと思います。
では、この魅力ある産地の歴史や様々なトピックを一緒に見ていきましょう!
歴史
イタリアでは紀元前2000年以上前からワイン作りが行われていましたが
あくまでも原始的なもので、より本格的なワイン造りがはじまったのは
ギリシャ人とエトルリア人によるもので、ローマ帝国のガリア遠征が大きな要因となったのでした。
この侵略によってギリシャ人は様々なブドウ品種や醸造方法、栽培の技術をイタリアに持ち込み、今日でもイタリア南部の州ではこういった古代品種を見かけることができます。
ドイツやフランスと同じく、イタリアでも中世のワイン造りの中心となっていたのは修道院でした。ただ、この時代のワインはミサなどの信仰のため、もしくは薬用としての利用が殆どで
一般庶民に飲まれるワインが普及するのはもう少し後の中世後期の頃の話でした。
16世紀に入るとワイン文化は急速に発展し、1716年にはトスカーナ大公コジモ3世が
ChiantiやPominoなどの生産地のエリア分けをし、これが原産地呼称の基盤となったのです。
当時のイタリアはいくつかの国家に分けれていましたが1861年にサヴォイア王家により統一されイタリア王国が誕生し、この統一がよりイタリアワイン界の品質向上を後押しする形となりました。
しかしながら他国と同様、1863年にヨーロッパを襲ったフィロキセラの被害によりイタリア各地のブドウ畑は壊滅的打撃を受け、次第に景気の悪くなったイタリアでは多くのブドウ畑が手放さなれていったのです。
そこから約1世紀の時が進み、大きな変化の時代がイタリアワイン界に訪れました。
かつての土着の品種より造られる普段飲みのワインではなく、「世界に通用するワイン」をキーワードにGajaなどの生産者が様々な栽培醸造方法を他国より導入し、急速な技術の近代化を図り
1980年代には革新的なワインが次々と世界へと飛び出していったのです。
これらは「イタリアワインルネッサンス」と呼ばれています。
スタイルとエリア区分
イタリアは全世界のワイン生産国の中でも珍しく、認可されている全ての州でワイン造りが行われています。
その為スタイルにおいてもそれぞれの州の個性が顕著に感じられ、郷土料理との関係性もより深いのが特徴的と言えます。
イタリアワインは現在のEUのワイン法では3段階に分かれており下からテーブルワインである
「Vino」、保護された地理を表記した「I.G.P.」、保護された原産地を表記した「D.O.P.」に分類されます。
そしてD.O.P.の中でも地域名、村名、畑名などそこからさらに細分化された表記がなされる場合もあります。
イタリアは北緯35度から47度という比較的北に位置しているにも関わらず、地中海性気候の影響で沿岸部が温暖な気候となります。
北の州ではアルプス山脈の影響もあり冷涼であるため、陽気な国のイメージがありますが実は多彩な気候があるのがイタリアの特徴でもあります。
今回はこの気候区分をベースにアルプス山脈の麓のエリアを北イタリア、ポー平原から半島半ばまでを中部イタリア、半島先端部と各諸島を南イタリアと分類し前編では北イタリア各州を
紹介していこうと思います。
北イタリア
ヴァッレ・ダオスタ州
イタリアで最も小さな州でスイス、フランスと国境を接しています。
認定品種が22品種と多いのが特徴ですが生産量が少ないためイタリア国外で手にすることはなかなか少ないのではないのでしょうか。代表品種は白ブドウはプリエ・ブラン。黒ブドウはプティ・ルージュやフミンなどが挙げられます。
ピエモンテ州
「山の麓」を意味するトスカーナ州と並ぶ同国で最も著名な銘醸地。統一国家以前のサヴォイア王家のお膝元であったこともあり、長い期間様々な文化の中心となっていました。
フランスに隣接することから、ワインや食文化もフランスの影響を強く受けていてスローフード文化の発祥地としても知られています。
赤ワインではバローロやバルバレスコ、バルベーラ。白ワインではモスカートやガヴィなど国際的に認知度の高いワインを多く産出しています。また食材の産地としても有名で、アルバの白トリュフ、世界三大ブルーチーズのひとつであるゴルゴンゾーラなどもピエモンテ州の特産品です。
代表的なブドウ品種は白ブドウはコルテーゼ、アルネイス、モスカートビアンコ、黒ブドウでは
ネッビオーロやバルベーラ、ドルチェットが挙げられます
リグーリア州
イタリアで3番目に小さい州で州都のジェノヴァは地中海貿易において重要な拠点となっていました。
耕作地域が非常に少なく、海沿いの断崖絶壁にブドウ畑が広がっている風景も珍しくありません。
海に接していることもあり魚介を用いた郷土料理が多く、それに合わせてなのか白ワインの生産量が多い産地です。
代表品種は白ブドウはヴェルメンティーノやピガート、ボスコ、黒ブドウではロッセーゼなどが挙げられます。
ロンバルディア州
イタリアにおいての経済的な中心地であり、州都のミラノは多くの観光客で賑わい、イタリアで最も豊かな州と呼ばれています。
北部はアルプス山脈の影響を受けた気候ですが中部から南部にかけては大陸性気候となり、州内でも様々な個性のワインを生産しています。
認知度の高いワインとしては瓶内二次発酵で造られるフランチャコルタがあり、ブドウ品種ではシャルドネやピノビアンコ(ピノブラン)、ピノネロ(ピノノワール)などの国際品種が比較的多く植えられています。
トレンティーノ・アルト・アディジェ州
同国最北に位置する州。オーストリア、スイスと国境を接しています。公用語がイタリア語とドイツ語であり、ワインのラベルもこの2言語が併記されています。
7割近くが山岳地帯であり、標高の高さを活かしたクリーンな味わいのワインを多く産出しています。白ワインの割合が多く、ピノビアンコ、ピノグリージョ、トラミネールやノジオーラなどからフルーティでアロマティックなワインが、固有黒ブドウであるラグレインからは濃厚な味わいのもの、スキアーヴァからは軽やかで優美なワインが造られます。
フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州
オーストリアとスロヴェニアに接する産地で、非常に多くの土着品種が植えられている産地です。
イタリアを代表する高級白ワイン産地として比較的早くから認知されていて、フリウラーノ、リボッラジアッラ、ピノグリージョ、ソーヴィニヨンブランなどが栽培されています。
オレンジワインのスター生産者が多くいるのもこの州です。
近年ではレフォスコ、スキオペッティーノ、ピニョーロ、タッツェレンゲなどから造られる赤ワインも徐々に評価がなされています。
ヴェネト州
山岳部の多いイタリアでは珍しく平野部の多い州で、水源が多いことから農業が盛んな州です。
イタリアを代表する巨大なワイン産地であり、スパークリングとして世界最大の消費量を誇るプロセッコや白ワインとしては世界的名声を誇るソアーヴェ、ユニークな醸造方法と長期熟成ポテンシャルを持つヴァルポリチェッラ、蒸留酒であるグラッパなど認知度の高いワインを多く生産しています。
州都ヴェローナはヴィーニタリーと呼ばれるワインの見本市が毎年開かれ、ワインの首都として業界では認知がなされています。代表品種は白ブドウはグレーラ、ガルガネガ、トレッビアーノ、黒ブドウではコルヴィーナやロンディネッラが挙げられます
エミリア・ロマーニャ州
エミリア・ロマーニャ州は美食で有名な産地です。
バルサミコ酢やパルマの生ハムやパルミジャーノ・レッジャーノなどの我々にも身近な食材がこの州で生産されており、タリアテッレやラザニアなどのパスタもこの州の特産品です。
高級自動車として知られるフェラーリやマセラティの本社もこの地にあります。
ワインとしては微発泡性の赤ワインであるランブルスコが有名で、ブドウ品種は白ブドウはアルバーナやピニョレット、黒ブドウではサンジョベーゼが多く植えられています。
まとめ
簡潔ではありますが今回は北イタリア各州の特徴を紹介させて頂きました。いかがでしたでしょうか?
ご覧になって分かる通り、イタリア各州は気候風土、食材などに合わせた様々なスタイルのワインが生産されておりそれが最大の魅力であり特徴でもあります。
逆にその多様性こそがややこしくしてしまうという点もあるのですが、位置関係と大まかな特徴を覚えれば少しずつ全体像を掴めていけると思います。
是非興味があればカーヴドヴァンオンラインでイタリアワインを探してみてくださいね。
次回の中編では中部イタリアをご紹介していこうと思います。お楽しみに!!
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
ソムリエ
朝倉達也
Sommelier’s Note
記事作成者
朝倉達也について
A.S.I.(国際ソムリエ協会) 認定ソムリエ / J.S.A.(日本ソムリエ協会) 認定ソムリエ・エクセレンス / Court of Master Sommeliers 認定ソムリエ / Napa Valley Wine Japan Expert / WSET Level 3 / 2022年、ソムリエの新しい働き方を広げてゆくべく独立、株式会社La Luneを設立。関西中心にフリーランスとして活動を開始。従来の概念にとらわれずもっと自由な料理とワインのペアリングをみなさまに楽しんで頂くために、独自のメソッドや方法論を日々試行錯誤している。