ワイン造りと経営。期待を裏切らないワインを造り続けるための進化 2016/6/21

私と同じ気持ちでワインに向き合っているか

私のワインは、私の個性とこの土地のテロワール（土壌や気候、地形など）の融合であるということはすでにお話ししました。ぶどうの栽培から醸造所での作業を含めおよそ40 人がワイン造りに携わっていますが、そのすべての過程に関わり、コミュニケーションを取りながら進めています。

会話を通してその人の能力を見極め、ワイン造りの方向性が一緒であることを確認します。工程のひとつひとつがワインの味や品質に表れますので、皆が私と同じ気持ちでワインに向き合っているか、同じ“言語” でワインについて語っているかは、私のワイン造りにとってとても重要です。

ワイン造りとビジネスの間のジレンマ

短期間で成功をおさめ、称賛をいただきましたが、その陰には苦悩や失敗があります。コンサルタントを雇い、何千ユーロという投資をして“失敗しない手法” を確立することもできたでしょうが、私は私の納得するやり方を追い求め、責任を取る道を選びました。「人生における過ちは、間違いを恐れてチャレンジしないこと」というのが私のポリシーです。

現在会社は転換期にあり、好きなワインを好きなだけ造れば良いという時期はとうに過ぎ、従業員の生活を支え、バイヤーや飲んでくださる皆さんの期待に応えるという新たな局面を迎えています。私のワインは入手困難と言われていますが、もっと気軽にグラーツ社のワインを楽しんでいただけるようにすることもビジネスの課題です。

ブランド管理のオペレーションを見直し、
ワイン造りの原点に還る

ワイン造りを志したのは、ワインの中に自分のすべてをつぎ込む価値を発見したからですが、同時に、ワインを飲む楽しさや感動を多くの人に知ってもらいたいと思ったからでもあります。会社が成長しても、この想いは変わりません。

「テスタマッタ」と「カザマッタ」( 手頃なベーシックラインのワイン) ではコンセプトもターゲットも違いますので、それぞれのアイデンティティを引き出し、飲まれるべき人に届けるための、きめ細かいブランドデザインやコミュニケーション・システムの構築が必要です。いま、そうした管理を任せられる人材の育成を考えています。そうすることで、私は妥協のないワイン造りに没頭するという、いわば原点に還る時期が来ているのだと感じています。これからもワインを通して皆さんに感動をお届けするために、グラーツ社は進化し続けるのです。

Profile: ビービー・グラーツ社 オーナー兼ワインメーカービービー・グラーツ氏: 芸術の都フィレンツェで芸術一家の中で育つ。当初自らも芸術の道を志すが、ワイン造りへの情熱に目覚め、2000 年より醸造家として出発。ファーストヴィンテージ「テスタマッタ2000」が、世界最大のワイン見本市「ヴィネクスポ」においてブラインドテイスティングでいきなりNo.1 に選ばれる。